大判例

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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)7496号 判決

原告 東京都

右代表者東京都知事 鈴木俊一

右訴訟代理人弁護士 杉本秀夫

被告 畠よし子

〈ほか一名〉

右二名訴訟代理人弁護士 鈴木一郎

同 錦織淳

同 浅野憲一

同 高橋耕

同 笠井治

同 佐藤博史

同 黒田純吉

主文

一  被告らは、原告に対し、別表1の1「滞納使用料等の金額・合計額」欄記載の各金員及びこれらに対する昭和五七年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに別表1の2「滞納使用料等の金額・合計額」欄記載の各金員及びこれらに対する昭和五九年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、二項と同旨

2  主文第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  使用許可

(一) 別表1の1の「都営住宅の表示」欄記載の各建物(以下、これらを併せて「本件各住宅」といい、それぞれの建物については、被告畠よし子(以下「被告畠」という。)の方を「本件住宅1」、被告藤本政一(以下「被告藤本」という。)の方を「本件住宅2」という。)は、原告が所有する都営住宅(昭和二七年建設の第二種公営住宅)である。

(二) 原告は、公営住宅法(以下「法」という。)二五条一項、東京都営住宅条例(以下「条例」という。)三条に基づき、被告畠に対し、本件住宅1を、被告藤本に対し、本件住宅2を、別表1の1の「使用許可年月日」欄記載の日に、それぞれ使用許可をなし、その頃本件各住宅を引き渡した。

2  昭和五一年の使用料改定

本件各住宅の使用料月額は、昭和五一年一一月三〇日以前、別表2の「51改定・改定前使用料」欄に記載のとおりであったが、原告は、昭和五一年に、次の経緯で、右各使用料を同表「51改定・改定使用料」欄記載の額にそれぞれ変更した。

(一) 本件各住宅の使用料は、昭和二七年に建設されて以来昭和三五年に一度変更されたのみで、それ以後は、昭和五一年一一月に至るまで増額変更されていなかった。他方、東京都統計年鑑昭和五五年版によって、昭和二七年と同五〇年を比較すると、消費者物価指数(総合)において、二六・九から一〇〇へ、民間家賃指数が一二・一から一〇〇へ、設備修繕指数が一五・一から一〇〇へ、それぞれ上昇している。そして、昭和五〇年当時の全都営住宅の入居者の収入に対する使用料負担率は、平均三・四パーセントという低率になっていた。また、諸物価の騰貴等により、従来の使用料をもってしては、住宅の維持管理費にも不足する状況となり、従来の使用料をそのまま維持することは極めて不合理となっていた。

右は、法一三条一項一号、条例一〇条一項一号の使用料変更事由に該当する。

(二)(1) 本件各住宅の昭和五一年当時の法一三条三項に定めるいわゆる変更法定限度額は、別表2の「51改定・変更法定限度額」欄に各記載のとおりである。原告は、法一三条一項、条例一〇条一項の使用料変更事由がある限り、変更法定限度額の範囲内においては自由裁量により使用料を変更することができるものであるが、原告東京都の知事(以下「知事」という。)は、変更額をできるだけ民主的かつ適正妥当なものとするため、昭和五〇年一一月一四日、東京都住宅対策審議会条例により知事の付属機関として設置されている東京都住宅対策審議会に「都営住宅使用料(家賃)の是正」について諮問した。

(2) 右審議会は、昭和五一年六月二二日に次のとおり答申した。

既存の都営住宅の使用料は、諸物価の高騰、所得水準の上昇に伴う経済、社会事情の変動により現状に著しく適合し難くなっていることから、適正妥当な額に是正する必要があり、変更法定限度額の各構成要素別に次により算定した額を合算調整して是正額を決定すべきである。

(ア) 修繕費、管理事務費は、変更法定限度額とする。

(イ) 償却費は、現行家賃の償却費に「償却費にかかる都の政策減額相当分」を加えた額とする。

(ウ) 地代相当額は、「法定限度額に消費者物価指数(地代、家賃)の上昇倍率を乗じたもの」と「固定資産税の評価額相当額に地代率として固定資産税率を乗じたもの」との平均値を調整した額とする。右算定方法によって、昭和二七年建設の第二種都営住宅の増額の基準を月額四三〇〇円とする。

(三) そこで、知事は、右答申の金額に、均衡上必要な調整減額を施し、本件各住宅の使用料を別表2の「51改定・変更法定限度額」欄記載のそれぞれの変更法定限度額の範囲内で、昭和五一年一二月一日、同表「51改定・改定使用料」欄に各記載のとおりの額に変更することを決定し、その旨を同年一〇月一五日付東京都公報により告示し、同月一六日頃、被告らに対し、書面をもって通知し、同書面はその頃、各到達した。

3  昭和五五年の使用料改定

原告は、さらに、昭和五五年、次のとおりの経緯で前記各使用料を別表2の「55改定・改定使用料」欄記載のとおりの額に改定した。

(一) 昭和五一年の変更により、長年に亘る低額使用料の増額が実施されたが、急激な上昇を避けるため、その値上がり幅を相当低く抑えたため、三年以上の期間が経過すると共に、物価上昇(ちなみに、昭和五〇年と比較した場合昭和五四年における消費者物価指数は一〇〇から一二八・一に、民間家賃指数は一〇〇から一三六・六に、設備修繕指数は一〇〇から一三四・五にそれぞれ上昇している。)との格差が拡大されることになり、それに加えて都営住宅相互間の使用料の不均衡は無視しえない状況となり、使用料の変更の必要性を生ぜしめた。

すなわち、都営住宅の使用料は、その設定に当たり、入居資格として定められている収入に見合った適正負担という考え方から政策的に減額して設定されるため、住宅毎の効用(規模、立地条件、設備等)の差はあまり反映されない。しかも、一度設定された使用料の額は、簡単に改定することができないため、異なる住宅間では住宅効用差や物価変動に伴う使用料の負担格差が反映されないまま固定され、均衡を失する状況を現出してきた。昭和三五年及び同五一年の使用料改定では右のような全体の不均衡を是正するには至らなかったのである。

右は、法一三条一項一号、二号及び条例一〇条一項一号、二号の使用料変更事由に該当する。

(二)(1) 本件各住宅の昭和五五年当時の法一三条三項に定める変更法定限度額は別表2の「55改定・変更限度額」欄に各記載のとおりであり、前記のとおり、知事は、その範囲においては自由裁量により使用料を変更する権限を有するものであるが、変更額をできるだけ民主的かつ適正妥当なものとするため、昭和五四年一月二九日、前記東京都住宅対策審議会に「居住水準に見合った都営住宅の適正な使用料(家賃)の負担はどうあるべきか」について諮問した。

(2) 右審議会は、昭和五四年一二月二四日、要旨次のとおり答申した。

(ア) 都営住宅の家賃は、政策家賃を基本とし、入居者の適正な負担において設定されるべきものとし、また、住居の規模、経年及び立地条件の違い等によって調整を行うものとする。

(イ) その具体的方策として、第二種都営住宅にあっては「入居資格の収入基準」の中間値に一五パーセントを乗じた額(月額二万七三〇〇円)をもって基準家賃と定め、同金額に、規模、経年、立地条件等の調整指数を乗じて、個別団地の使用料を設定するものとする。但し、急激な負担増とならないように、第二種都営住宅については、(ⅰ) 増額が二五〇〇円以内のものは、その金額を増額する。(ⅱ) 増額が二五〇〇円を超えるものは二五〇〇円に超えた金額の二分の一を加算した額を増額する。(ⅲ) 右(ⅱ)の計算による増額が三五〇〇円を超えるものは三五〇〇円を増額する。

(三) 知事は、右審議会の答申に基づき、使用料変更方式を決定し、昭和五五年七月一日から本件各住宅の使用料をその別表2の「55改定・変更法定限度額」欄記載の各変更法定限度額内である同表「55改定・改定使用料」欄に記載のとおりの額に変更することを決定し、その旨を同年五月一九日付東京都公報により告示し、同月二七日頃、被告らに対し、書面をもって通知し、同書面はその頃、各到達した。

4  なお、本件各住宅の昭和五一年度及び同五五年度における変更法定限度額の立証が不十分であるとしても、昭和五一年及び同五五年に改定された本件各住宅の各使用料がそれぞれ変更法定限度額を下回るものであることは、次の方法によっても確認される。

(一) まず、昭和五一年、同五五年の各変更使用料は、本件住宅2の同五五年の変更使用料を除くと、いずれも、変更法定限度額の構成要素である地代相当額すら超えない低廉なものであった。すなわち、本件各住宅の「地代相当額」について、変更時ごとにその最小値を別表3のE欄記載の計算方式に基づき算出すると、その額は、別表4の「51改定」欄及び「55改定」欄中の各「地代相当額最小値」欄記載の額となり、右各変更使用料はそれすら超えていない。

なお、右地代相当額最小値の算出過程における各数値の根拠は次のとおりである。

(1) 固定資産税評価額相当額

(ア) 右算出方式の固定資産税評価額相当額とは、公営住宅施行令(以下「令」という。)四条の四第三項掲記の表備考欄により、近傍類似の土地の固定資産税評価額に相当する額によることになる。

(イ) しかして、近傍類似の土地として、本件住宅1については、次の(ⅰ)の土地を、本件住宅2については、(ⅱ)の土地をそれぞれ選定した。これらの土地は、本件各住宅の属する各団地に近接した宅地であるので近傍類似地として、最適と判断したものである。

(ⅰ) 練馬区関町二丁目甲一五四番六号

宅地 一八六・八四平方メートル

固定資産税評価額 昭和五〇年度

九四〇万四九二〇円

昭和五四年度

一一八五万三一二〇円

(ⅱ) 東久留米市中央町一丁目一一〇〇番一八号

宅地 一三三・二八平方メートル

固定資産税評価額 昭和五〇年度

二七四万六三六七円

昭和五四年度

三八六万五一二〇円

(ウ) 右各評価額の一平方メートル単価を本件各住宅の一戸当たり敷地面積に乗じて本件各住宅敷地の昭和五〇年、同五四年当時の敷地の固定資産税評価額を求めると、別表4の「51改定」欄及び「55改定」欄中「固定資産税評価額相当額」欄記載の各金額となる。

(2) 土地造成費及び土地取得造成費補助金(補助金率)

(ア) 土地取得造成費は、土地取得に要した費用及び宅地造成費に要した費用の実際額である。

土地取得造成費補助金は、本件各住宅の建設当時は、昭和四四年法律四一号による改正前の公営住宅法(以下「旧法」という。)七条一項に基づき、国が事業主体に対し、当該公営住宅の建設費(工事費と土地取得造成費の合計額)について、建設大臣の定めた標準建設費を限度として補助の対象とし、第二種公営住宅に係るものについては建設費の要素である工事費及び土地取得造成費のうち右補助の対象とする額の各三分の二を補助するものとされていたものである。

(イ) 本件各住宅はいずれも第二種公営住宅に該当するから、土地取得造成費の三分の二が補助されていることになるのであるが、建設大臣の定めた標準建設費は一般の建設費より低廉なため、実際の建設費は、標準建設費を超えるのが常態であり、ために、実際の土地取得造成費の補助金率は、旧法七条一項の規定する三分の二より小さい率を示すことになる。

(ウ) ところで、別表3の「E・地代相当額」欄中、「固定資産税評価額相当額×{土地取得造成費補助金÷土地取得造成費}×〇・〇六」の計算式による数値は、全体式の控除要素であるところ、補助金率が大きければ大きいほどその控除数値が大きくなり、地代相当額は逆に小さくなる関係にある。

(3) そこで、右三分の二の数値をもって仮に計算の基礎と考え、本件各住宅の昭和五一年及び同五五年当時の地代相当額最小値を求めると、それぞれ別表4の「51改定」欄及び「55改定」欄中の地代相当額最小値欄記載のとおりとなり、各変更使用料の額は、これを下回ることになる(なお、家賃収入補助額の制度は昭和二七年建設の本件各住宅には適用がない。)

(二) 次に、本件住宅2の昭和五五年の変更法定限度額であるが、別表5のとおり、地代相当額最小値に償却費、修繕費、管理事務費の各要素(損害保険料を除く。)の最小値を加えて算出すると、同表の「計」欄のとおり一万一九一八円となる。その算定過程における各数値の根拠は次のとおりである。

(1) 償却費

(ア) 工事費

償却費の算出の基礎になる工事費は、実際の工事費ではなく、本件住宅2の建設年度である昭和二七年度の標準建設費を構成する工事費(一九万〇〇五〇円)を基準として用いたものであるが、建設大臣の定めた標準建設費の構成要素である工事費は、実際の建設費に比べて低額であるのが常態であるから、これを基礎として算出した償却費も実際の金額より低額なものとなる。本件住宅2は、第二種、木造、戸当り床面積二八・〇五平方メートルの住宅であり、その床面積が建設省住宅局建設課長による昭和二七年度公営住宅標準建設費の算出についての通知の別表による同種類の標準住宅の標準床面積八・五坪(二八・〇五平方メートル)と同一であるので、右標準住宅の標準建設費金一九万〇〇五〇円を工事費としたものである。

(イ) 補助金

土地取得造成費と同様に、工事費についても、旧法七条一項に基づき、国が事業主体に対し、第二種住宅についてはその三分の二を補助するものとされているが、標準工事費を超える部分については旧法七条三項によって補助の対象とはならない。

本件住宅2は第二種住宅に該当するので、右標準工事費の三分の二の一二万六七〇〇円が補助金とした。

(ウ) 通達率及び乗率

通達率は、法一三条三項の規定により建設大臣が定める率、すなわち、建設大臣が住宅宅地審議会の意見を聞き、毎年建設物価の変動を考慮して地域別に定める率であり、乗率は、令四条一、二号に基づく率であって、それぞれ別表5中の「通達率及び乗率」欄記載のとおりである。

(2) 修繕費及び管理事務費

本件住宅2の修繕費及び管理事務費について、別表3中の「修繕費」欄及び「管理事務費」欄の算出方法に基づき、その金額を算出すると、別表5中の「修繕費」欄及び「管理事務費」欄のとおりとなる。その各数値の根拠は次のとおりである。

(ア) 工事費については、償却費の場合と同様に、標準工事費を基準として用いたものであり、具体的には前記(1)アの金額を本件住宅2の工事費とした。したがって、これを基礎として算出した修繕費及び管理事務費も実際の金額より低額なものとなる。

(イ) 通達率は、法施行規則六条により建設大臣が定める率であり、乗率は、令四条三号に定める率であって、それぞれ別表5の通達率及び乗率欄記載のとおりである。

(3) 以上によれば、本件住宅2についての昭和五五年の使用料変更は変更法定限度額を超えないことになる。

5  付加使用料

知事は、被告畠について、同人の昭和五八年一二月一日から同五八年六月三一日までの年間総収入を別表6の1の「年間総収入」欄記載のとおりに、右期間中の同居扶養親族数を同表「同居扶養親族数等」欄記載のとおりに、それぞれ認定し、別表6の2、3の計算式に基づき、別表6の1の「付加使用料」欄記載のとおり付加使用料を認定した。

そして、知事は、被告畠に対し、昭和五九年二月二五日、右付加使用料を通知し、その頃右通知が到達した。

6  よって、原告は、被告らに対し、別表1の1の滞納期間中の使用料として、同表「滞納使用料等の金額・合計額」欄記載の各金員及びこれらに対する昭和五七年六月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金並びに別表1の2の滞納期間中の使用料及び付加使用料(被告畠のみ)として、同表「滞納使用料等の金額・合計額」欄記載の各金員及びこれらに対する昭和五九年一一月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める(但し、「使用許可」は、賃貸借契約締結を意味するものとして。)。

2  同2の冒頭部分のうち、本件各住宅の使用料が昭和五一年一一月三〇以前は、別表2の「51改定・改定前使用料」欄記載のとおりであった事実は認め、使用料変更の効果は争う。

同2(一)のうち、東京都統計年鑑昭和五五年版によって、昭和二六年と同五〇年を比較すると、消費者物価指数(総合)において、二六・九から一〇〇、民間家賃指数において一二・一から一〇〇、設備修繕指数において一五・一から一〇〇に各上昇していることは認め、その余は否認ないし争う。

同2(二)の事実は不知。

同2(三)のうち、原告主張のとおり、本件各住宅の使用料を変更する旨の告示のあったことは認め、その余の事実は否認する。但し、右告示は借家法七条の家賃増額請求としての効力は有しない。

3  請求原因3(一)のうち、昭和五〇年と比較した場合、同五四年における消費者物価指数が一〇〇から一二八・一に、民間家賃指数が一〇〇から一三六・六に、設備修繕指数が一〇〇から一三四・五にそれぞれ上昇していることは認め、その余の事実は否認する。

同3(二)の事実は不知。

同3(三)のうち、原告主張のとおり、本件各住宅の使用料を変更する旨の告示のあったことは認め、その余の事実は否認する。但し、右告示は、借家法七条の家賃増額請求としての効力を有しない。

4  請求原因4の(一)冒頭の事実のうち、変更法定限度額が、別表3の算出方法のとおりの算出方法によって算出されることは認め、その余は否認する。

同4(一)(1)の事実のうち(イ)の土地の面積及び固定資産税評価額は認め、その余は否認する。

同4(一)(2)、(3)の事実は否認する。

同4(二)の事実のうち、変更法定限度額が、別表5の算出方法によって算出されることは認め、その余は否認する。

5  請求原因5の事実は否認する。

三  被告らの主張

1  条例一〇条一項の無効性

法一三条一項は、公営住宅の家賃(使用料)の変更は、条例の形式で行うべきものとしている。しかるに、条例一〇条一項は、知事が都議会の議決を経ずに家賃を変更することができるものとして、法一三条一項の委任事項を包括的に知事に再委任しており、これは、法一三条一項に違反しているから無効な規定である。そして、本件各家賃変更は、右無効な規定に従って、都議会の審議を経ずに行われたものであるから、法に定める手続を踏まない無効な使用料改定である。

2  改定賃料の借家法七条、法一条に照らした不当性

(一) 原告のいう都営住宅の使用料は民間借家の家賃と変わるところはなく、その増額は借家法七条による家賃増額請求に該当する。したがって、本件都営住宅家賃の変更は、法一三条一項の各号に該当する等法の定める要件、手続を踏むべきのみならず、右変更額が同法一条の「低廉な家賃」でなければならないとの要件を満たし、かつ、一般家賃の増額請求と同様客観的に相当なものでなければならない。原告のいう付加使用料も、その実質は割増賃料であって、私法上の賃貸借における賃料と変わらない。したがって、公営住宅使用の対価である家賃額は、右賃料及び割増賃料を合算した額であり、家賃を変更する場合には、右合算額が低廉であるうえに客観的に相当の範囲内でなければならない。法一三条三項の「限度額」とは、手続上同法一三条二項の「公聴会の開催」及び「建設大臣の承認」を必要とするか、しないかの限度を画するに過ぎず、右「限度額」内であれば、その範囲内の賃料変更は原告の自由裁量であると解することはできない。

したがって、公営住宅の家賃の増額については、借家法七条により、次の(二)で述べるとおり、鑑定理論及び判例上の合理的な算定方法を基本としたうえ、公営住宅としての特徴をその算定要素又は補正率の中に組み入れた算定をすべきであり、そのようにして算定された家賃額を超えるような家賃の増額をするのは、不当である。

(二) 公営住宅の特殊性を考慮した適正な増額賃料の算定方式

(1) 継続家賃の算定

家賃の算定にあたっては、新規家賃と継続家賃の二種類を明確に区別しなければならない。新規家賃は、契約当事者が自由に決定することができ、基本的には、目的物の価値に見合った経済的合理性を有する賃料であり、土地建物の価格に期待利回りを乗じて求めた純家賃と必要経費を加えたものによって構成される。これに対して、継続家賃は、従前の賃料が不相当になったときに相当な額まで増額請求する場合の家賃であって(借家法七条)、継続家賃は、増額請求権行使の要件及び増額の決定について、借家法の規制を受けることになる。この場合の相当な額とは、増額請求時における当該賃貸借の目的物の価値に見合った適正な額である必要はなく、当該賃貸借において相当な額であれば足り、その算定方式は、継続家賃の本質から、通常、スライド方式又は差額配分方式によって求められる。

本件各使用料改定は、長年居住を継続してきた入居者に対して家賃の増額をしようとするものであるから、当然継続家賃を算定するべきである。

(2) スライド方式の採用

借家法七条に基づく継続家賃を算定するには、差額配分方式及びスライド方式による試算賃料を比較考慮して鑑定時における適正賃料を求めるべきであるが、右の両方式による継続家賃を比較すると、差額配分方式においては、土地建物の現在の時価をそのまま反映し、かつ、通常の経済賃料の期待利回りに従うので、相当に高額な家賃とならざるを得ない。したがって、スライド方式による低額な家賃額が借家法七条に基づく継続家賃であるというべきである。

(3) 公営住宅の特殊性を考慮した継続家賃の算定

(ア) 建物及び土地の基礎価格

土地については、公営住宅は本来地方自治体又は国の所有する土地を用いて住宅を建設するのが原則であるから、公営住宅建設のために土地を購入しなければならない場合でも、土地を取得した原価が回収されれば良いはずであって、地方自治体又は国がその後の土地の値上り分まで儲ける必要性はない。したがって、土地の基礎価格については家賃変更時の時価を基準にするのではなく、土地の取得原価を回収する原価主義を採用すべきである。また、土地の取得原価といっても、取得時と家賃変更時とでは貨幣価値が異なるので、土地の取得原価に家賃変更時までの貨幣価値変動率(卸売物価指数)を乗じた額を土地の基礎価格とすべきである。しかし、本件においては、原告が土地の取得原価を明らかにしないので、時価から時価変動率を用いて取得時の価格を推定すべきことになる。

これに対し、建物については、それが土地のように永久財ではないこと、都営住宅では居住者が修繕補修を行ってきていること等から、変更時の時価を基礎価格とすべきである。

(イ) 建物及び敷地の基礎価格に乗ずべき期待利回り

一般民間人が期待するであろう利回り、すなわち、一般市中金利を用いることは、公営住宅の特殊性からみて不当である。そこで、不動産の現実利回り、すなわち、長期間賃貸借が継続している場合の現実の支払賃料の土地建物に対する割合を統計的に処理した利回りを基準とし、公営住宅の特殊性を充分に考慮したうえで、期待利回りを求めるべきである。

(ウ) 控除すべき必要経費

一般に建物賃貸借において計上されるべき必要経費は、減価償却費、修繕費、管理費、公租公課、損保険料、貸倒準備費、空室等損失相当額である。これらのうち、減価償却費については、収益を発生させる必要のない公営住宅においては、建物建築の原価を回収すれば良いのであるから、建物推定取得原価に貨幣価値変動率としての卸売物価指数を乗じて計算すべきである。管理費については、公営住宅においては本来地方自治体が予算を計上して自ら負担すべきものであって、居住者が負担すべきものではない。公租公課については、地方自治体所有の不動産であるから、現実には存在しない。また、家賃不払いや空室の損失分に関する貸倒準備費、空室損失相当額も、公営住宅においては居住者に負担させるべきものではない。

(三) 昭和五一年賃料増額の不当性

(1) 東京都住宅対策審議会の答申の誤り

東京都住宅対策審議会は、本件五一年度答申において、地代相当額について地代の当初法定限度額に消費者物価指数(家賃)の上昇倍率を乗じた数値と固定資産評価額に地代率として固定資産税率を乗じた数値の平均値を調整した額を地代相当額としたが、この方式自体に何らの合理的根拠もない。また、右の消費者物価指数は、統計上新規家賃のそれであることは公知の事実であり、その指数をそのまま乗ずることは誤りである。

(2) 東京都住宅対策審議会の答申を歪曲した増額使用料決定の誤り

右(1)の算定方式の内、地代の当初法定限度額は、当初の土地取得費によって算出されたから、地域によって著しい高低があり、また、現固定資産税評価額についても同様に著しい開きがある。したがって、住宅対策審議会も地域別の個別的実施を期待していた。しかるに、知事は、建設年度別に一律に全部平均化して増額使用料を決定しており、不当である。

(3) 修繕費その他の増額について

(ア) 修繕費

原告は、木造都営住宅は将来建替える予定であるとして基本的には修繕しない(特に計画修繕は全くしない。)方針を採用しているのであるから、昭和五一年度賃料増額が修繕費の値上げを含んでいることは、不当である。

(イ) 償却費、管理費などその余の構成要素

当該公営住宅の建築に要した費用(工事費)は、地域、団地及び年度によって異なり、したがって、償却費はすべて個別(団地別)に算出されるべきである。ところが、知事は、団地別にではなく、一律に建設年度別の標準建設費を用いているので、不当である。

(四) 昭和五五年度の家賃増額の不当性

(1) 収入基準に一五パーセント(第二種)を乗ずることの誤り

(ア) 建設省の住宅宅地審議会は、昭和五〇年八月九日、「今後の住宅政策の基本的体系について」と題する答申において、「全世帯を年間収入の状況に応じて低位から順次五等分した所得五分位階層のうち第一分位における標準世帯(夫婦と子供二人の四人世帯)の家賃負担限度を世帯収入の概ね一五パーセント程度とし、世帯の収入階層別、世帯人員別等に応じ調整する。」旨の答申をした。昭和五四年一二月一四日の東京都住宅対策審議会の答申は、右宅地審議会答申を借用したものと認められる。

しかしながら、「家賃負担限度率」は、あくまでも、家賃負担の限界率であって、適正負担率ではないのであるから、低廉であるべき公営住宅の家賃の変更に「家賃負担限度率」をそのまま用いることは不当である。また、「家賃負担限度率」は、民間住宅を主とした全借家についての数値であり、かつ、民間住宅の家賃は相当高額であるから、その分当然負担限度額も高くならざるをえない。そのような高い「家賃負担限度率」を乗じることは、公営住宅の家賃変更においては、相当でない。さらに、前記住宅宅地審議会答申は、応能家賃制度の問題として一般賃貸住宅の家賃について適正家賃を政府が決めたうえ、それと負担限度額との差額については公的補助の対象にすべきであるとしている。その結果、家賃負担限度率は、予算の算定上も高めに設定される傾向があるので、この意味においても右限度率を用いることは不当である。

(イ) 実際負担率との比較

東京都の「事業概要」によれば、公営住宅居住者の家賃負担率は、五・六パーセント、民営でも一二・七パーセントと報告されている。また、東京都の住宅対策審議会においても、公営、民営の平均で五・五八パーセント、公営で三・三五パーセント、民営で一〇・一パーセントと報告されている。原告主張の一五パーセントは、これらと比較しても高すぎる。

(ウ) 低所得者の家賃負担限度率

原告は、第一種住宅の場合には、収入基準の「中間値」金七五〇〇円に一六パーセントを乗じて基準家賃を算出している。そうすると、収入基準の下限値である五五〇〇円の収入しかない者にとっては、当該基準家賃は、収入に対し、二一・八パーセントの負担となり、前記住宅宅地審議会による「家賃負担限度率」を五・八パーセントも超えることになる。また、収入が下限値から中間値しかない者すべてにとって、家賃負担率が右の「家賃負担限度率」を超えることになる。このような基準家賃は、第一種公営住宅入居者には収入の六分の一以上の家賃を負担させるべきではないとする令五条の趣旨に違反するし、家賃の低廉性を定めた法一条にも違反する。

(2) 「基準家賃」から「適正家賃」を算出する方法の誤り

原告の「適正家賃」算出方法は、不当なウエイトの導入や、調整指数項目の設定の恣意性等、極めて不合理かつ、居住者に不利益になるように構成されており、不当である。

(3) 公社住宅との比較

公営住宅が低所得者層に対応するのに対し、公社住宅は、その上の所得階層に対応するのであるから、当然、公社住宅の家賃よりも公営住宅の家賃の方が低廉でなければならない。

しかしながら、昭和五五年当時の公社住宅の戸当り平均家賃は、昭和二五年建設から同四六年建設までの住宅をみると、前者が平均七七九四円、後者が平均一万七四〇九円であり、その間は、なだらかな線を描いて上昇している。これに対し、都営住宅の戸当り平均家賃は、昭和二五年建設の第一種住宅の平均が九四四三円であり、年度が新しくなると徐々に高くなり、同四六年建設の第一種住宅の平均が二万〇八六二円となっている。このように昭和五五年の賃料改定を行えば、昭和二五年度から昭和四六年建設の住宅までのすべての年度の第一種都営住宅の平均家賃が、おおよそ二〇〇〇円から三〇〇〇円も公社住宅よりも高くなって、逆転現象を生じさせる。したがって、本件昭和五五年の賃料改定は低廉であるという原則を逸脱した不当なものである。

(五) 付加使用料を考慮した場合の本件各家賃増額の違憲違法性

(1) 付加使用料とは、法二一条の二第二項の割増賃料のことであるが、同条によって、第一種公営住宅にあっては、法一三条三項の月割額(家賃)の〇・四倍、第二種公営住宅にあっては、その〇・八倍を限度として徴収することができるものとされている。そして、条例一九条の三は、右限度額を第一種都営住宅にあっては、〇・三倍、第二種都営住宅にあっては、〇・五倍と定めている。

(2) しかし、付加使用料は、公営住宅の使用に対する対価であるから、家賃の低廉性を要求している法一条の制約を受け、基本使用料と付加使用料を合計した額の低廉性が要求される。しかも、その合計額は、公営住宅が低所得者に対する住宅供給を目的にしていることからすると、公社、公団住宅の家賃を超えてはならないというべきである。具体的に言えば、第一種都営住宅の基本家賃は公社、公団の家賃の〇・七六九倍(一・三の逆数)以下、第二種都営住宅のそれは同じく〇・六六七倍(一・五の逆数)以下でなければならない。

しかるに、本件各家賃変更にあたっては、付加使用料を考慮せず、しかも基本使用料でさえ、公社、公団の家賃を上回っているのであるから、憲法二五条、法一条に違反している。

3  変更法定限度額算定上の誤り

(一) 地代相当額の計算における敷地面積

公営住宅の使用料は、公営住宅使用の対価に外ならないから、地代相当額は、公営住宅及びその付帯施設を含む各戸の敷地専用部分の面積のみを基礎として算定すべきであり、団地内通路及び児童遊園地等の公共的施設又は共同施設用地の面積をも含めて算定すべきではない。また、被告らも含めて一般に区民税、都税等が徴収されているのであるから、公営住宅の団地内通路及び児童遊園地等を地代相当額算定の基礎となる敷地面積に含めるのは、被告らに二重支払をさせる結果になり、相当でない。しかるに、本件各使用料改定においては、団地内通路及び児童遊園地等の公共的施設又は共同施設用地の敷地面積をも含めて地代相当額を算定しており、不当である。

(二) 固定資産税評価額相当額について

(1) 昭和三九年三月三一日建設省住発九一号通達は、公営住宅の家賃の構成要素である法一二条、一三条三項所定の地代相当額の算定にあたっては、「当分の間、昭和三八年度分の固定資産税に係る固定資産税評価額を用いること」としている。昭和四四年六月三〇日建設省住発一二三号通達においても、同通達は、昭和三八年建設以前の公営住宅につき不均衡是正を理由とする場合にのみ当該年度の固定資産税評価額を用いるものとしているだけであるから、それ以外の場合については、右昭和三九年の通達は廃止されていない。したがって、法一三条一項二号の不均衡是正を目的とする家賃変更については右昭和四四年通達が適用されて当該変更年度の固定資産税評価額を用いることになるけれども、法一三条一項一号の物価の変動に伴う家賃変更については右昭和三九年通達によって、依然、昭和三八年度分の固定資産税評価額を用いることになる。本件昭和五一年の家賃変更は法一三条一項一号の物価の変動に伴う家賃変更であるから、その際の変更法定限度額は、昭和三八年度分の固定資産税評価額を要素として算定すべきことになるはずである。また、本件昭和五五年の家賃変更は、法一三条一項一号の物価の変動に加えて、同項二号の不均衡是正も変更理由となっているが、同項一号が変更理由の一つとなっている以上、この場合も、昭和三八年度分の固定資産税評価額を要素として算定すべきことになるはずである。しかるに、本件各賃料変更は、改定直前の年度の固定資産税評価額を要素として変更法定限度額を算定しているので、その基準年度に誤りがある。

(2) 施行令四条五号、四条の四第三項の固定資産税評価額相当額とは、地代家賃統制令告示が「価格とは地方税法三四九条に規定する固定資産税台帳に登録された価格(当該価格が……固定資産税の課税標準となるべき額を超えるときは当該課税標準となるべき額とする。)」としているのと同趣旨に解すべきであるが、原告は、これに従っていない。

(三) 地代相当額の利回り率

施行令四条の四は、地代相当額の算定につき、固定資産税評価額相当額に六パーセントもの利回りを乗じているが、継続地代の利回りは、民間においても〇・五から〇・六パーセントが通常であって、最高でも二パーセント程度なのであるから、土地の価格に六パーセントの利回りを乗ずること自体全く不合理である。右利回りは、固定資産税評価額の著しい高騰と相まって、法定変更限度額を青天井にしておよそ限度額としての機能を喪失せしめている。したがって、この利回り率は法一条に反する。

(四) 補助金率の最大値を二分の一又は三分の二とした誤り

土地取得造成費補助額を土地取得造成費で除した補助金率については、実際の土地取得造成費が標準建設費の構成要素である土地取得造成費補助基本額を超えているという前提自体に疑問があり、また、実際の補助金率は、法律の定める最大値の二分の一(第一種住宅)又は三分の二(第二種住宅)を超えている疑いもある。したがって、原告主張の簡易な立証方法は、その前提自体に疑問がある。

4  割増賃料(付加使用料)について

(一) 付加使用料についても、その請求は借家法七条の家賃増額請求権の行使にほかならないから、その効果は原告の付加使用料徴収の意思表示が被告畠に到達した時から生ずるというべきであるのに、原告が右意思表示が被告畠に到達した日から遡って付加使用料の請求をしているのは不当である。

(二) 原告は、付加使用料の付加基準となる入居者の収入とは毎年一〇月三一日から遡る一年間の収入をいうものとしながら、右期間の収入額を前年度の一月一日から一二月三一日までの収入を賃料として認定しており、これは矛盾である。

(三) 付加使用料は、原告が法施行令一条三号の定義に従って算出した収入額に基づき請求するものであるが、その計算を誤った結果、請求に係る付加使用料額が多すぎた場合、原告はその誤りが明らかとなり次第、何時でも再計算し、客観的に正しい付加使用料を請求し直すべきである。条例一九条の五第二、第三項の収入認定の規定は集団的処理の便宜のための規定に過ぎず、これらの規定によって入居者が誤った付加使用料の額を争えなくなるものと解すべきではない。

四  被告らの主張に対する原告の認否及び反論

1  被告らの主張1は争う。

公営住宅の家賃の変更は、法一三条一項によれば、条例の形式によるとされているが、その趣旨は必ずしも個々の具体的な家賃額まで条例に規定しなければならないとするものではない。公営住宅の家賃の算出は、運用上の政策的要素を含み、技術的、個別的、かつ、大量的であるから、実際の家賃額まで、それぞれ条例で規定することは、運用の円滑を欠くことになる。したがって、法の委任を受けた条例が、事業主体の長に対し、法及び施行令に規定する変更法定限度額の範囲内で家賃を変更できる旨を再委任することは、適法なものと解すべきである。

2  被告らの主張2は争う。

法一三条は借家法七条に対する特別規定である。したがって、公営住宅の家賃変更については、専ら法一三条が適用され、借家法七条は適用されない。そして、法一三条によると、事業主体は、法定の変更事由があるときには、変更法定限度額内である限り、条例で自由裁量によって家賃を変更できるものと解される。したがって、被告らの主張2のうち借家法七条の適用を前提とする部分については、その前提自体に誤りがある。また、被告らの主張2のうち、法一条ないし憲法二五条に反するとする主張は争う。

3(一)  被告らの主張3(一)のうち、本件各住宅内に道路敷地部分のあること、本件住宅2の属する都営久留米住宅団地内に児童遊園地、集会所等の施設のあることは認めるが、その余は争う。

法二条八号、施行令三条にいう「共同施設」とは、国の補助を受けたものをいうが、久留米団地内の児童遊園等の公共的施設は、そのような補助を受けて建設されたものではないので、法にいう「共同施設」ではなく、したがって、これを地代相当額算定の基礎となる敷地面積に含めることは、適法である。

(二) 同(二)(1)、(2)の主張は争う。

(三) 同(三)の主張は争う。

(四) 同(四)は否認ないし争う。

4  被告らの主張4は争う。

法二三条の二、条例一九条の四の規定に基づく収入に関する報告義務を履行しない都営住宅の入居者については、原告としては、官公署での書類閲覧や勤務先への照会等独自の調査によってその収入を把握せざるを得ない。この作業は相当の日数と費用を要するから、報告義務を履行しない入居者については、収入認定通知が付加使用料の適用年月日に間に合わない事態が生ずることがある。報告義務を履行している大多数の入居者との公平を期するためには、収入認定に基づく付加使用料の支払いを付加使用料の適用年月日まで遡及せしめる必要があり、このことは、入居者に毎年送付する収入調査の報告案内にも明記している。付加使用料の認定通知日より前の付加使用料を請求するのは、被告らが収入に関する報告義務を怠ったからにほかならない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件各住宅の使用料月額が昭和五一年一一月三〇日前は別表2の「51改定・改定前使用料」欄記載の額であったところ、知事が、昭和五一年一〇月一五日付東京都公報により本件各使用料を同年一二月一日から同表「51改定・改定使用料」欄記載の額に変更する旨告示し、次いで、昭和五五年五月一九日付東京都公報により本件各住宅の使用料を同年七月一日から同表「55改定・改定使用料」欄記載の額に変更する旨告示したことは、当事者間に争いがない。

三  そこで、まず、公営住宅の家賃の決定・変更に関する法一二、一三条の規定の趣旨及びその算定方式等について検討する。

1  法一条との関係

公営住宅法にいう公営住宅は、住宅・都市整備公団がその業務として賃貸し、又は譲渡するいわゆる公団住宅と同じく、住宅建設計画法三条にいう「公的資金による住宅」の一種ではあるが、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することを目的として建設される住宅である点において、住宅事情の改善を特に必要とする大都市地域その他都市地域において健康で文化的な生活を営むに足りる良好な居住性能及び居住環境を有する集団住宅として供給される公団住宅とはその趣を異にするものであって、法はその目的に資するため、次のような規定を置いている。

すなわち、法は、地方公共団体に対し、低額所得者の住宅不足を緩和するため必要があると認めるときは、公営住宅(入居者の収入等の差により第一種と第二種の区別がある。)の供給を行わなければならないと定めるとともに(法三条)、国は、公営住宅の供給を行う地方公共団体(事業主体)に対し、その公営住宅の供給に関し、必要があると認めるときは、工事費の補助等の財政上、金融上、及び技術上の援助を与えなければならない旨定めている(法四条、七条、八条)。

また、法一二条及び一三条は、法一条にいう「低廉な家賃」を担保するため、事業主体の決定する家賃及び変更する家賃につきそれぞれその上限(いわゆる当初法定限度額及び変更法定限度額)を定めるとともに、法二〇条は、建設大臣が公営住宅の家賃等について著しく適正を欠くと認めるときは、当該事業主体に対して、その変更を命ずることができる旨定め、建設大臣に事業主体の定めた家賃を変更する命令権があることを明らかにしている。そして、さらに、法一三条三項は、右の変更法定限度額の算定方法についても、その各変更法定限度額自体が低廉となるように、原価主義を基本にした詳細な算定方式を定め、これにより、その額が算出できるものとするという立法形式を採用しているのである。

ちなみに、公営住宅を建設するために必要な土地の所有権を取得した場合を例として、右各法定限度額の算定方式の内容についてみると、法一二条及びこれに基づく令四条は、まず、当初法定限度額につき、当該公営住宅の工事費から、国の補助にかかる費用を除いたものを、木造住宅の場合には二〇年という長期の償却期間に利率年六分で毎年元利均等に償却するものとして算出した額に、修繕費、管理事務費、損害保険料及び地代に相当する額(土地の取得造成費に百分の六を乗じた額から土地取得造成費の補助額に一〇〇分の六を乗じた額と家賃収入補助額を控除した額)を加えたものの月割額をもって、当初法定限度額としているのであり、右当初法定限度額には民間借家の場合には加算される公租公課や空室引当金等が含まれていないこと、償却期間も二〇年と比較的長いこと、国又は都道府県の補助に係る部分の減価償却費が含まれていないこと等を考え併せると、その算定方式から見る限り、右当初法定限度額は民間借家の新規家賃に比べてかなり低廉になるように定められているというべきである。

さらに、法一三条及びこれに基づく令四条の四は、変更法定限度額につき、基本的には、右と同様の算定方式を踏襲しつつ、法定限度額積算の個々の構成要素につき再調達価格的考え方を導入し、例えば、地代相当額の算定要素として、「土地の取得造成費」に代えて、「固定資産税評価額相当額」を、また、「工事費」に代えて、「建設大臣が政令で定めるところにより住宅宅地審議会の意見を聞き建築物価の変動を考慮して地域別に定める率を当該公営住宅の工事費に乗じて得た額」をもって算定すべきものとしているが、「固定資産税評価額」が土地の再取得価格を大幅に下回ることは公知の事実であり、また、《証拠省略》によれば、右にいう建設大臣が定める当該公営住宅の工事費に対する乗率も実際の建築物価の上昇率よりもかなり低率に抑えられていることが認められるところであるから、右のように再調達価格的考え方を導入したといっても、その価格は政策的にかなり低額に抑えられていることは明らかであり、さらに、変更法定限度額の算定方式中その余の定めは当初法定限度額の場合とほぼ同一であって、当初法定限度額についての前記の事由が、変更法定限度額の算定方式の場合にほぼ当て嵌まることを併せ考えると、右の算定方式からみる限り、変更法定限度額も、民間のあるべき継続家賃と比べてかなり低廉になるように定められているというべきである。それに加えて、法七条及び八条は、政令で定める基準の収入のある者に賃貸するための第一種公営住宅と、第一種公営住宅の家賃を支払うことができない程度の低額所得者又は災害により住宅を失った低額所得者に対して賃貸するための第二種公営住宅とで、右各限度額に差を設けるため、第二種公営住宅については国の補助金率を高めて、当該住宅の各限度額が第一種公営住宅のそれよりも低額になるように特段の配慮をしている。

以上認定、説示したところによれば、公営住宅の家賃の当初法定限度額及び変更法定限度額の算定方式は、要するに、その方式自体において努めてその営利性を排し、工事費(または、固定資産税評価額相当額)等の原価から補助等の公的援助部分を控除した額を基礎として、算定するように法定されていることは明らかであるから、右の算定方式自体は、法一条にいう「低廉な家賃」を担保する趣旨に合致した合理的なものというべきであり、したがって、公営住宅の家賃が、右の算定方式に従い、当初法定限度額又は変更法定限度額の範囲内で適式に定められているときは、特段の事情がない限り、右の家賃は、法一条にいう「低廉な家賃」の要件を満たしているものと認めるのが相当であるというべきである。

2  家賃の決定・変更と借家法七条一項との関係

次に、法一三条は、公営住宅の家賃変更の要件として、事業主体は、同条一項一号ないし三号に定める事由、すなわち「一 物価の変動に伴い家賃を変更する必要性があると認めるとき。二 公営住宅相互の間における家賃の均衡上必要があると認めるとき。三 公営住宅について改良を施したとき。」の一に該当する場合においては、条例で、当初法定限度額(または変更法定限度額)の範囲内で家賃を変更できる旨定めているが、同項二号は、低額所得者に対して家賃を公平に負担させるという見地から、公営住宅相互間の家賃の不均衡、すなわち、公営住宅相互間の規模、経年、立地条件及び設備等の相違を勘案しても、家賃負担に不均衡を生じた場合に、これを家賃変更の事由とすることを定めていると解すべきもので、借賃の増減請求権を定めた借家法七条にいう「比隣ノ建物ノ借賃ニ比較シテ不相当ナルニ至リタルトキ」とは、その要件を異にするものというべきであるから、借家法七条と異なる観点から家賃変更事由を定めたものであることが明らかである。

このように、上記説示の、法の家賃の決定、変更に関する諸規定の目的、内容、構造に照らすと、法一三条及びこれに基づく諸規定は、家賃の増減事由及び方法について定めた借家法七条一項の特則として定められたものであることは明らかであるから、右の公営住宅の家賃の変更事由等については、専ら特別法たる法一三条等の諸規定の適用があり、借家法七条一項の規定の適用は排除されているというべきであり、また、法一三条は、家賃の変更について、法の定める変更法定限度額の範囲内で事業主体が条例で定めることができると定め、変更の幅についてそれ以上の制限規定を置いていないこと、変更法定限度額の範囲内で家賃をどのように変更するかは、結局のところ、事業主体が低額所得者のためにどの程度の公的援助を与えるのが妥当であるかの政策の問題であると考えられること及び前判示の変更法定限度額制定の趣旨、目的を総合勘案すると、法所定の要件を満たす限り、事業主体は、変更法定限度額の範囲内であれば、自由な裁量により、その家賃を変更できるものと解するのが相当である。

したがって、本件各住宅の使用料変更につき、借家法七条一項の規定の適用があることを前提とする被告らの主張部分は、その前提を欠き、失当である。

3  条例一〇条一項の効力

ところで、法一三条一項は、条例で家賃を変更することができる旨規定しているところ、条例一〇条一項は、右規定を受けて、都営住宅の使用料変更の要件及び変更の限度として、法と同一の規定をおいているのみで、具体的な使用料の額の決定はこれを知事に委任していることは明らかである。この点について、被告らは、法一三条一項は使用料の具体的な変更自体まで条例の形式で行うべきことを要求していると解すべきであり、それにもかかわらず、条例一〇条一項が知事が都議会の議決を経ずに使用料の変更ができるとしているのは、法一三条一項の規定に違反すると主張する。

しかしながら、法一三条一項が家賃の変更を条例に委任した趣旨は、法令の定めに反しない限度で、当該地方公共団体の実情に即した公営住宅の家賃変更の要件の付加ないし、その変更の限度の設定等を条例によりすることを許容した趣旨と解すべきものであり、公営住宅の家賃の算出が、技術的かつ個別的であり、しかも実際の家賃の額まで条例で規定することは、その運用の円滑を欠くことにもなるので、被告らの主張のように個々の公営住宅の具体的な使用料の変更自体を条例で定めなければならないことをも要求する趣旨と解すべき合理的理由はないから、東京都が、その地方の特殊性に照らしてみても、特段の定めを置く必要を認めないとして、家賃の変更の要件及びその額の限度について法と同一の規定を重ねて条例に置き、その算定に煩雑な作業を要する個々の使用料の変更のごときは、その事柄の性質上、これを執行機関である知事に委任することにしたとしても、もとより不合理であるとはいえず、東京都議会が自由に議決しうべき範囲内の事項であるというべきである。したがって、この点についての被告らの主張は、理由がない。

四  そこで、以上説示したところに基づき、昭和五一年の使用料改定の当否について、判断する。

1  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件各住宅の使用料は、昭和二七年に建設されて以来、昭和三五年に一度変更されたのみで、それ以後は、昭和五一年一一月に至るまで増額変更されていなかった。

(二)  昭和三五年と同五一年の物価指数を比較すると消費者物価指数(総合)において、三三・一から一〇九・六、民間家賃指数において、三六・三から一〇九・三、設備修繕指数において、一八・九から一一〇・九に各上昇していた。

(三)  昭和五〇年当時の全都営住宅の入居者の収入に対する使用料負担率は、平均三・四パーセントという低率になっていて、適正な負担を確保する必要があり、また、諸物価の騰貴、所得水準の上昇等に伴う経済社会事情の変動等により、従来の使用料のままでは、住宅の維持管理にも不足する状況となっていた。

以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。右認定事実は、法一三条一項一号、条例一項一号の使用料変更事由に該当するということができ、したがって、昭和五一年一二月当時、原告において、本件各使用料を変更すべき事由があったということができる。

2  《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一)  知事は、法一三条一項一号及び条例一〇条一項一号の事由に基づき、変更法定限度額の範囲内において使用料を変更することとし、昭和五〇年一一月一四日、条例により設置された知事の付属機関である東京都住宅対策審議会に、「都営住宅使用料(家賃)の是正」について、諮問した。

(二)  右審議会は、審議の結果、既存の都営住宅の使用料は、諸物価の高騰、所得水準の上昇等に伴う経済、社会事情の変動により現状に著しく適合し難くなっていることから、これを変更すべきではあるが、変更法定限度額(第二種都営住宅平均で月額一万四八二四円)に従ってこれを変更することは、使用料の急激な増額をを招くこととなって現実的ではないと判断し、取り合えず、激変緩和のため、政策的な変更基準を採用することとし、公営住宅の使用料の変更額につき、昭和五一年六月二三日、要旨次のとおりの答申をした。

(1) 法一三条三項所定の変更法定限度額の算定方法をその算定要素毎に次のとおり下方修正し(但し、修繕費、管理事務費を除く。)、変更法定限度額の範囲内で、各年次毎に、右の修正後の方法により算定した額を合算し(右合算額は、第二種都営住宅につき、平均月額金九四四六円、変更法定限度額に対する割合は、六三・七パーセント)、これについて、時系列的な均衡等を考慮して調整する。

(ア) 修繕費、管理事務費は、維持管理経費が現実に大幅に不足していることを考慮し、変更法定限度額とする。

(イ) 償却費は、現行家賃の償却費に、「償却にかかる都の政策減額相当分」を加えた額とする。

(ウ) 地代相当額は、土地の利用価値の変動等諸般の事情を勘案して「法定限度額に消費者物価指数(地代・家賃)の上昇倍率を乗じたもの」と「固定資産税の評価相当額に地代率として固定資産税率を乗じたもの」との平均値を調整した額とする。

(2) 右算定方式によって、昭和二七年建設の第二種都営住宅の使用料の増額の基準を月額四四〇〇円と決定する。

(三)  そこで、知事は、右答申に係る増額の基準額に九〇〇円の政策的減額を施して、本件各住宅の従前の使用料に三四〇〇円を増額して、昭和五一年一二月一日から別表1の「51改定・改定使用料」欄記載の額に変更することを決定し、その旨を同年一〇月一五日付東京都公報により告示し、かつ同月一六日、使用料改定通知書を被告らに送付して通知した(右告示があったとの点は当事者間に争いがない。)。

3  そこで、次に、昭和五一年の使用料変更が本件住宅の変更法定限度額の範囲内にあるかどうかについて、判断する。

(一)  原告は、昭和五一年当時における本件住宅の変更法定限度額が別表2の「51改定・変更法定限度額」欄記載の額であった旨の確定額の主張をするが、右確定額を認めるに足りる証拠はない。

(二)  しかしながら、右構成要素の一である地代相当額について、その最小値を試算してみると次のとおりであり、昭和五一年の本件各住宅の使用料改定は地代相当額の最小値をも超えないものとなっている。

(1) 弁論の全趣旨によれば、本件各住宅は、令四条の四第三項の表中「公営住宅を建設するために必要な土地の所有権を取得した場合」に該当することが認められるから、その変更法定限度額は、令四条の四、四条に基づき、別表3の算出方法によって算出されるものであり、また、その構成要素である本件各住宅の地代相当額は、同表E欄の算式により算出されることとなる。そして、令四条の四第五項の表中の備考欄によれば、右式のうち「固定資産税評価額」は、近傍類似の土地の固定資産税評価額相当額をいうが、《証拠省略》によれば、練馬区関町甲一五四番六号の宅地は本件住宅1の属する関町二丁目第三住宅団地に、東久留米市中央町一丁目一一〇〇番一八号の宅地は本件住宅2の属する東久留米住宅団地に、それぞれ近接し、右各住宅の敷地の類似地として適当な土地であることが認められ、その面積が昭和五〇年当時、それぞれ、一八六・八四平方メートル及び一三三・二八平方メートルであったこと並びに昭和五〇年度の固定資産税評価額が九四〇万四九二〇円及び二七四万六三六七円であることは当事者間に争いがない。

また、弁論の全趣旨によれば、右各団地の総敷地面積が関町二丁目第三住宅団地では、一三九七・九平方メートル、久留米住宅団地では、七一八〇・九平方メートルであること、それぞれの団地内に存在する都営住宅は、関町二丁目第三住宅団地では一二戸、久留米住宅団地では五〇戸であることが認められる。

そこで、右各団地の総敷地面積をそれぞれに存在する全都営住宅の戸数で除して求めた戸当り敷地面積に、前記各近傍類似地の一平方メートル当たりの固定資産税評価額を乗じて昭和五〇年度の本件各住宅敷地の固定資産税評価額相当額を求めると、別表4の「51改定・固定資産税評価額相当額」欄記載の金額となる。

右の計算過程は次のとおりである。

(ア) 本件住宅1

1,397.9÷12=116.4

116.4×50,337=5,859,226

(イ) 本件住宅2

7,180.9÷50=143.6

143.6×20,605=2,958,878

ところで、右地代相当額の算式の控除要素である{固定資産税評価額相当額×(土地取得造成費補助金÷土地取得造成費)(補助金率)×〇・〇六}の計算式による数値は、補助金率が、大きいほど大きくなり、それによって、地代相当額は小さくなる関係にあるところ、旧法七条一、三項によれば、国が事業主体に対し当該公営住宅の建設費(工事費と土地取得造成費の合計額)について、建設大臣の定めた標準建設費を限度として、第二種住宅に係るものについては、その建設費の三分の二を補助するものとされており、かつ、《証拠省略》によれば、実際の建設費は、標準建設費を超過するのが通常であること、実際の運用において土地取得造成費に対する補助金率は、実際の土地取得造成費の三分の二以内に抑えられていたこと及び本件各住宅が建設された昭和二七年当時の実際の土地取得造成費に対する補助金率も同様であったことが認められるから、実際の補助金率の最大値は法の定める三分の二であると認められる。

そこで、右補助金率の最大値である三分の二の数値を算出の基礎として、地代相当額の最小値を算出すると、昭和五一年において別表4の「51改定・地代相当額最小値」欄記載の額となり、本件各住宅の地代相当額は、この金額を下回ることになる(なお、家賃収入補助額の制度は、昭和二七年建設の本件各住宅に適用がない。)。

(2) 被告らは、地代相当額算定の対象となる本件各住宅の敷地面積を求めるに当たって、本件各住宅の属する各団地内の道路敷地部分や、本件住宅2の属する都営久留米住宅団地内の児童遊園地、集会所等共同施設の敷地面積も除くべきである旨の主張をしているので、この点について判断する。

本件各住宅の属する各団地内に道路部分のあること、都営久留米住宅団地内に児童遊園地等のあることは当事者間に争いがない。そして、法一三条三項は、変更法定限度額の構成要素の一として「地代に相当する額」をあげるとともに、変更法定限度額に関し必要な事項は政令で定める旨規定している。それを受けた令四条の四第三項は、「公営住宅を建設するために必要な土地の所有権を取得した場合」においては、「固定資産税評価額(括弧内省略)に一〇〇分の六を乗じた額」から一定の法定額を控除した年額をもって地代相当額とする旨定めている。したがって、「固定資産税評価額」の基礎となる敷地面積は、法二条五号所定の「公営住宅を建設するために必要な土地」の面積をいうものであって、同条九号所定の「共同施設を建設するために必要な土地」の面積は、右「固定資産税評価額」の基礎となる敷地面積には含まれないものと解される。

しかしなから、《証拠省略》を総合すれば、法二条八号、令三条にいう「共同施設」については、国からの補助をうけることになっていたが、実際には、国からの補助を受けた共同施設は存在しなかったこと、本件各住宅内の道路部分、久留米住宅内の児童遊園地等は、いずれも原告が、本件各住宅の建設当初において、財源上「共同施設」(法二条八号)として建設したものではなく、原告が「公営住宅を建設するために必要な土地」(同条五号)として所有権を取得した土地を利用して、団地内居住者が使用するために都営住宅建設費用の一部によって設置された施設等であることが認められる。そして、前判示のとおり、法は、公営住宅建設のための原価(又は再建築価格)を基としてその家賃を算出する方式を採用しているのであるから、地代相当額算出に際しては、これらの施設、道路の敷地部分も含めて算定の基礎とすべきはむしろ当然というべきである。

したがって、本件各住宅内の道路、久留米住宅内の児童遊園地等の施設は、法二条二号の「附帯施設」又はこれに類するものと解し、それらの敷地を法二条五号所定の「公営住宅を建設するために必要な土地」として、地代相当額算定基礎となる敷地面積に含めることは相当というべきである。よって、被告らの右主張は理由がない。

(3) 次に、被告らは、右算定に用いるべき固定資産税評価額を昭和三八年のそれであるとし、その根拠として昭和三九年三月三一日付建設省住発九一号通達を援用し、右通達は、昭和四四年六月三〇日付建設省住発一二三号通達によっても法一三条、一項、三項の変更事由の場合に関しては変更されていないと主張するので、この点について、判断する。確かに、昭和三九年の右通達が、当分の間、昭和三八年度分の固定資産税に係る固定資産税評価額を用いるべきものとしていたことは《証拠省略》により認められ、また、昭和四四年の通達が法一三条一項一号及び三号の事由による家賃変更の場合について、何ら言及していないことは、《証拠省略》により認められる。しかしながら、法一三条、令四条の四第三項の趣旨によれば、物価変動等を理由とする家賃変更は、あくまでも当該変更時の物価を基準にして、変更の適否、程度を判断するものであるところ、物価変動の要素として、地価の変動や地代を決定する一因子である固定資産税も考慮されるのが通常であるから、当該変更の法定限度額を算定する際に用いる地代相当額(固定資産税評価額)についても、当該変更年度の固定資産税評価額を用いることは合理的であり、また、昭和三九年の通達の趣旨も、元来、「当分の間」同通達の基準の使用を予定していたものであって、長期に亘って右基準によらしめることを合理的としていたわけではないと解される。したがって、法一三条一項、一号及び三号の場合に関しても、昭和三九年の通達時から一〇年以上経過した本件昭和五一年の使用料改定時においては、昭和三九年の通達によるべき合理性は失われていたものというべきであり、右通達は、事実上廃止されていたものと解するべきである。

よって、被告らの右主張は理由がない。

さらに、被告らは、固定資産税評価額相当額を地代家賃統制令告示に規定されている「価格」と同一に解すべきだと主張するが、そのように解すべき法律上の根拠はない。

(4) また、被告らは、令四条の四が地代相当額の算定につき固定資産税評価額に六パーセントの利回りを乗ずる方式を採用していることについて、その法違反を主張するが、公営住宅の法定限度額の算定方法は、前記説示のとおり、基本的に原価主義をとるなど、民間における継続地代の算定とはその全体の算定方式自体が異なっているものであるから、利回りが六パーセントとして計算されていることの一事をもって、右令がただちに法一条の法意に反するものとは到底言えない。

よって、被告らの右主張は理由がない。

4  以上認定したところによれば、昭和五一年の変更使用料がその当時の変更法定限度額はもちろん地代相当額の最小値すらも下回る低廉なものであったということができる。

そして、本件各住宅の昭和五一年の改定使用料が、その当時における民間家賃の水準よりかなり低廉であったことは、いわば公知の事実ともいうべきであって、このことは、民間借家において賃料の所得に対する負担率が、被告らの引用する統計ないし報告によっても、一二・七パーセントないし一〇・一パーセント(昭和六一年九月八日付被告ら準備書面参照)であり、家賃の額が同一であれば、低額所得者の入居する公営住宅における使用料負担率が高率になるべきであるのに、《証拠省略》によれば、前記昭和五一年の答申に係る是正率を前提にしても、第二種都営住宅入居者の平均使用料負担率は、平均五・八パーセントとなるに過ぎないことからも明らかである。

5  したがって、知事が、昭和五一年一〇月一五日付東京都公報により告示し、かつ、被告らに通知した本件各住宅の使用料増額は、有効であると認めることができる。

五  次に、昭和五五年の使用料改定の当否について判断する。

1  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  昭和五一年の変更後、三年以上の期間が経過するとともに、物価は、前記昭和五〇年の各指数に対する昭和五五年における消費者物価指数(総合)が一三七・九に、民間家賃指数は、一四一・〇に、設備修繕指数は、一五〇・七になる等著しく上昇した。

(二)  昭和五一年の使用料の変更は、物価の変動に伴い、都営住宅の維持管理費に不足をきたしたことに対する是正に主たる力点があり、したがって、その変更の理由も法一三条一項一号及び条例一〇条一項一号の事由によるものであったため、異なる都営住宅相互間の住宅効用差や物価変動に伴う家賃負担の不均衡の問題は、直接の是正の対象とはされず、次の検討課題として残されていた。

以上の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。右認定の事実は、法一三条一項一号、二号、条例一〇条一項一号、二号に該当するということができ、したがって、昭和五五年七月当時原告において、本件各住宅の使用料を変更すべき事由があったものということができる。

2  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  知事は、法一三条一項一号、二号及び条例一〇条一項一号、二号に基づき、変更法定限度額の範囲内において、使用料を変更することとし、昭和五四年一月二九日、前記東京都住宅対策審議会に「居住水準に見合った都営住宅の適正な使用料(家賃)の負担はどうあるべきか」について諮問した。

(二)  右審議会は、審議の結果、変更法定限度額(第二種都営住宅平均で月額二万〇三〇〇円)に従って変更することは前回同様適当でないとして、都営住宅の使用料は入居者の適当な負担を考慮して、減額決定される調整率を乗じて各都営住宅相互間の使用料の負担の均衡を図ることとし、居住水準に見合った都営住宅の統一的な使用料の体系について、昭和五四年一二月二四日、要旨次のとおり、答申した。

(1) 新規住宅の政策家賃を基本とし、入居者の適正な負担において設定されるべきであり、具体的には、昭和五五年度公募の都営住宅について算出された政策家賃(第一種住宅につき三万六五〇〇円、第二種都営住宅につき二万七三〇〇円)をもって基準家賃とする。

(2) 右基準家賃に、新規住宅については、住宅の規模、経年、立地条件、設備等の調整指数をそれぞれ乗じ、居住水準に対応した個別住宅の家賃を設定するものとする。

(3) 既存の住宅については、昭和四九年度公募対象住宅及びこれと基準家賃を同じくする住宅までを是正の対象(以下、この住宅を「是正対象住宅」という。)とするが、急激な負担増とならないように、第二種都営住宅においては、(ア) 増額が二五〇〇円以内のものは、その金額を、(イ) 増額が二五〇〇円を超えるものは二五〇〇円に超えた金額の二分の一を加算した額を、(ウ) 右(イ)の計算による増額が、三五〇〇円を超えるものは、三五〇〇円を、それぞれ増額する。

(三)  右答申は、新規住宅につき政策家賃を維持することにより、定額所得者の負担能力に配慮するとともに、政策家賃を基とする基準家賃を居住水準により是正して、既存住宅に適用するに際しては、調整指数中「立地条件調整」のウェイトを低めにして、地価の差による値上げ率が高くならないように配慮し、かつ、第二種については、最大でも、使用料の増額幅が三五〇〇円以内に留どまるように制限を設けたものであった。前述のように右答申当時における第二種都営住宅の変更法定限度額の平均は、月額二万〇三〇〇円、是正対象住宅の右答申当時の一戸当たりの使用料の平均は、月額八四〇〇円であり、右答申どおりの増額が実施された場合の一戸当たりの使用料の平均は、一万一三〇〇円で平均二九〇〇円の増額となり、変更法定限度額に対して占める増額後の使用料の率は五五・七パーセントであった。

(四)  そこで、知事は、右審議会の答申に基づき、右答申どおりの使用料変更方式を採用することを決定し、本件各住宅の従前の使用料を昭和五五年七月一日から別表「55改定・改定使用料」欄記載の額に変更することを決定し、その旨を同年五月一九日付東京都公報により告示し、かつ、同月二七日、使用料改定通知書を被告らに交付して通知した(右告示があったとの点は当事者間に争いがない。)。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

3  そこで、次に、昭和五五年の使用料変更に係る本件各住宅の使用料が本件各住宅に係る法定変更限度額の範囲内にあるかどうかについて判断する。

(一)  原告は、昭和五五年当時における本件各住宅の変更法定限度額が別表2の「55改定・変更法定限度額」欄記載の額であった旨確定金額の主張をするが、原告の主張どおりの金額であったことまでを認めるに足りる証拠はない。

(二)  そこで、一応、右変更法定限度額の構成要素の一である地代相当額について、その最小値を算出してみることとする。

前出の練馬区関町二丁目甲一五四番六号の宅地(関町二丁目第三住宅の近傍類似地)及び東久留米市中央町一丁目一一〇〇番一八号の宅地(久留米住宅の近傍類似地)の面積が、それぞれ一八六・八四平方メートル及び一三三・二八平方メートルであること及び昭和五四年の固定資産税評価額が、それぞれ一一八五万三一二〇円及び三八六万五一二〇円であることは当事者間に争いがない。そこで、前記四3(二)の算定方式に従って昭和五四年度の本件各住宅の敷地の固定資産税評価額及び地代相当額最小値を求めると、別表4「55改定・地代相当額最小値」欄記載の額となり、本件住宅1については、昭和五五年の改定使用料を下回っている。ところが、本件住宅2については、昭和五五年の改定使用料を上回っている。そこで、次に、本件住宅2について、変更法定限度額の最小値の算定を試みることにする。

(三)(1)  前記認定のとおり本件住宅2は、令四条の四第三項の表中「公営住宅を建設するために必要な土地の所有権を取得した場合」に該当するので、その法定変更限度額は、令四条の四、四条に基づき、別表3の算出方法のとおり算出されることになる。

そして、前記認定のとおり、実際の建設費は、標準建設費を超過するのが常態であったことが認められるから、別表3の計算式のうち、工事費は標準建設費をもって算定することとする。

そして、《証拠省略》によれば、本件住宅2の標準工事費は、一九万〇〇五〇円であることが認められる。

(2) 《証拠省略》によれば、通達率及び乗率は別表5の「通達率及び乗率」欄記載の各数値がそれぞれ妥当することが認められる。

(3) 以上の数値に基づいて、変更法定限度額の最小値を試算するとその計算式は、別表5の「55改定・計算式」欄記載のとおりとなり、計算結果は、一万一九一八円となることがそれぞれ認められる。

(4) 以上によれば、本件住宅2の昭和五五年度の改定使用料は、変更法定限度額を下回っていることが認められる。

(5) 被告らは、変更法定限度額の算定方法について、種々論難するが、その理由のないことは、前記四3(二)の(2)ないし(4)に記載のとおりである。

(6) 以上から、昭和五五年の改定使用料は、本件各住宅いずれについても、変更法定限度額の範囲内であったと認めることができる。

4(一)  《証拠省略》によれば、本件住宅2の比隣の都営住宅の経済価値に即応した賃料(新規家賃)は、鑑定時点(昭和五八年八月二〇日)において、月額六万八六〇〇円が相当であること、消費者物価指数(全国総合)に〇・八、卸売物価指数(投資財)に〇・二の各ウェイトを乗じて加重平均したスライド指数を計算すると、昭和五五年七月時点が一三五・六、鑑定時が一四三・五となること、このスライド指数をもって、昭和五五年七月時点の本件各使用料改定時の新規家賃相当額を逆算すると、右都営住宅においては、昭和五五年七月一日時点で、月額六万四八二三円となること、差額配分方式によって、継続家賃を計算すると、従前の賃料と右経済的価値に即応した賃料の差額に対する入居者の負担割合を仮に四割とみても、昭和五五年七月一日時点で、月額二万七二六一円となることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかるに、本件住宅2の改定使用料額は、昭和五五年の改定で、月額七四〇〇円であるから、本件住宅2の使用料改定額と前記民間の新規家賃額ないし差別配分方式による継続家賃額とを比較すると、本件住宅2について、本件各使用料改定額が、民間家賃額よりも著しく低廉であることが推認され、弁論の全趣旨を総合すれば、このような状態は、本件住宅1についても(付加使用料月額二三七〇円を加算しても)同様であるものと推認されるのである。

(二)  被告らは、公営住宅の家賃が公社住宅の家賃よりも常に低廉でなければならないのに逆転しているから本件昭和五五年の使用料改定は不当である旨主張するが、本件各住宅の家賃が、公社住宅の家賃水準を超えていることを認めるに足りる証拠はなく、また、公営住宅の家賃が、公社住宅の家賃を超えることできない旨定めた実定法上の規定はないのであるから、超えていたとしても、その点のみをとらえて、昭和五五年の使用料改定が不当ということはできない。

(三)  また、被告らは付加使用料を加算した場合の本件使用料改定が憲法二五条及び法一条に反するとの主張をするが、前記4(一)の認定事実からすると、付加使用料を加算してもなお、被告畠の使用料総額は、民間家賃と比較して、著しく低廉であるというべきであるから、かかる主張は理由がない。

5  以上から、知事が、昭和五五年五月一九日付東京都公報により告示し、かつ、被告らに通知した本件各住宅使用料増額は、有効であると認められる。

六  付加使用料について

1  《証拠省略》を総合すると次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。原告においては、都営住宅の使用者の収入については、収入基準日を毎年一〇月末日までと定め、右基準日から逆算して、一年間(以下「収入認定期間」という。)の収入を入居者からの報告に基づいて調査のうえ、その一二分の一をもって入居者の収入認定月額としているのであるが、収入報告を怠った者については、住民課税台帳等の公的証明の得られる前年の一月から一二月までの収入を資料として、その者の収入認定期間中の収入を推定しているところ、被告畠は、少なくとも昭和五八、五九年において、自己の収入の報告をしなかった。そのため、知事が、昭和五七年度の同被告の収入金額、同居扶養親族及び老人扶養親族を当該年度の住民課税台帳(但し、前年度の収入等に関し記載されるもの)の記載に基づきこれを調査し、その結果に基づき、令一条三号の定めるところに従って同被告の昭和五七年度の収入認定月額を算定した。その結果、別表6の1の「収入認定月額」欄記載のとおり、同被告は昭和五七年度において法二一条の二、令六条の二の定める収入超過基準を超える収入を得ていることが明らかになったので、知事は、昭和五七年度収入月額を基本として別表6の2及び同6の3の算定方式に従い、付加使用料の額を別表6の1の「付加使用料」欄記載のとおり決定し、被告畠に対し、昭和五九年二月二五日、その旨通知し、その頃右通知が到達した。

2  被告らは、原告が、一方で、収入基準日から逆算した一年間の収入を算定の基礎とするとしながら、他方で、前年度の収入を基礎とすることもあることについて、矛盾した制度だとして論難するが、《証拠省略》によれば、原告の管理する都営住宅は、約二三万戸で、そのうち収入調査の対象となる件数は毎年約二〇万件に上るため、入居者からの収入報告のない限り、このように極めて多数の入居者の収入認定期間中の収入を逐一把握することは著しく困難であり、また、収入基準日までに収入認定期間中の収入の公的証明資料を入手することも殆ど不可能であること、このため収入報告を怠ったものについては、知事としては、住民課税台帳の公的証明を得られる前年の一月から一二月までの収入を資料とする外他に適切妥当な方法のない事情のあることが認められ、右事実からすると、収入報告を得られなかった場合に原告の採用している前年度の収入から当該年度の収入を推定する認定方法は合理的理由のあるものであり、右のような推定方法を採ったからといって違法の点が生じることはないから、被告らの右主張は理由がない。

なお、付言するに、条例一九条の五によれば、入居者が知事から通知を受けた収入認定額、明渡努力義務発生の基準となる収入超過基準額の有無、付加使用料の額等に不満があるときは、入居者は、右通知の日から三〇日以内に右認定に対して、意見を述べることができ、知事は、右意見の内容を審査して必要と認めるときは、収入認定額を改定するものとされているところ(第一ないし第三項)、右不服申立期間中に右認定に対する入居者からの不服申立がないときは、右通知に係る認定収入額等は確定し、もはや争い得ないものと解するのが相当であり、本件において、被告畠は、原告から収入認定額、付加使用料の額等について通知を受けながら、不服申立期間内に右認定に対する不服申立をした形跡を窺えないから、今更これを争うことは、許されないというべきである。

3  次に、被告らは、付加使用料について、前記通知が到達した日から遡って請求することは許されないと主張するので、この点について、判断する。

法は、公営住宅が、そもそも、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸するために建設される住宅であることに鑑み、引続き三年以上公営住宅に入居している者が、公営住宅の種類に応じて施行令六条の二第一項で定める基準を超える収入を得ているときは、当該入居者に公営住宅の明渡努力義務を課し(法二一条の二第一項)、引続き五年以上公営住宅に入居している者が最近二年間に引続き施行令六条の三第一項で定める基準を超える高額の収入を得ているときは、事業主体に当該入居者に対する公営住宅の明渡請求権を付与することを明定する(法二一条の三)。そして、この明渡努力義務者が当該公営住宅を明渡すことができず、引続き入居を継続している場合においては、法二一条の二第二項は、事業主体が第一種公営住宅にあっては、法定限度額の〇・四倍、第二種公営住宅にあっては、その〇・八倍に相当する額以下で入居者の収入に応じて政令(法施行令六条の二第二項)で定める額を限度として、条例で定めるところにより割増賃料を当該入居者から徴収することができる旨規定している。そして、条例一九条の三は、右の規定を受けて、明渡努力義務者が当該都営住宅を引続き使用しているときは、当該都営住宅の使用料のほかに、同条の定める計算方法により算出される付加使用料を納付しなければならない旨規定しており、条例施行規則二〇条においては、右付加使用料は、法二一条一項の規定による収入に関する報告期限の属する年の一二月から納付しなければならない旨定められている。

右によれば、法令、条例で明定された一定の条件を備えた者の付加使用料の納付は、義務的で、事業主体に徴収するか否かの裁量が認められおらず、付加使用料の額も、事業主体の認定を待つまでもなく、条例の定める算式に従って自動的に算定することが可能な仕組みとなっている。これに、条例一九条の三第一項は、付加使用料納付義務の発生要件として、都営住宅を引続き三年以上使用している入居者に収入超過基準を超える収入があり、その者が当該都営住宅を引続き使用していることを掲げるのみであること等も併せ考えると、右要件を満たす限り、付加使用料の納付義務は、収入認定基準日において、入居者に対する通知を待たずに、当然かつ抽象的に発生しているものと解すべきである。

被告らの右主張は、右通知を借家法七条一項に規定する賃料増額請求権の行使と同様のものとみなすことを前提にするものと解されるところ、法及び条例が都営住宅の使用料の変更手続についての借家法七条一項の特則をなし、同項の規定の適用が排除されることは前記説示のとおりであり、条例が右のとおり付加使用料納付義務の発生要件を規定していること及びその根拠が可及的に住宅に困窮する低額所得者に住宅を供給しようとする点にあること等に鑑みると、右通知は形成権たる借家法七条一項の賃料増額請求権の行使とは性格を異にし、付加使用料納付義務発生の要件ではなく、既に発生している入居者の抽象的な義務を具体化し、かつ都営住宅の入居者に知事の認定した収入額等に対して不服申立の機会を与えるための手続に過ぎないと解すべきである。したがって、知事は、通知の日から遡って付加使用料を徴収することも許されるというべきであり、被告らの右主張も理由がない。

七  以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 阿部則之 芦澤政治)

〈以下省略〉

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